
『妄想タケノコ』のコロンさんちの
この記事を読んで、ちょっと
思いついた、駄文。
本当に思いつきなので、終着地点は見えないままだ(笑。。
終わりなき夜に生まれついて
強烈に喉が渇いていた。
巨大なエアコンの室外機から吹く
かび臭い熱気が、少年の体内から水分を奪っていく。
いや、それだけではなかった。
もっと根本的に、もっと中心から、彼は乾いていた。
数時間前に自分の深層から沸きあがってきた驚愕すべき感情。
そして、それがもたらした陰惨な場面が、フラッシュのように
少年の体内で発火を繰り返し、くすぶり続けていたからだった。
暑い・・・と少年は思った。
いったい何日雨が降っていないのだろう。
大気はこんなにも湿気を含んで垂れ下がっているというのに
いっこうに雨が降らない。
「そのうち空が破裂するぞ・・・」と彼はつぶやいた。
そして、空よりも先に、俺が破裂したんだな・・・と思いつくと、
にやりと笑った。
白くて細い首筋を汗が這う。汗をぬぐう。
水だ・・・水を探すんだ。
まるで砂漠に迷うジプシーみたいだ。
少年は、蜃気楼を見るように眼下の街を見下ろした。
光の帯が幾重にも連なって、そのどれもが残らず行き先を
見失っているかのようだった。
この光の川は俺の渇きを潤してはくれない。
少年は、両腕をいっぱいに広げて給水タンクに
抱きついた。
冷たい・・。
耳を近づけると、固い鉄の殻の向こうで
得体の知れない生き物が蠢く音がする・・。
だけど・・。
この中にあるものが、水かどうかなんて本当のところ
誰にもわかりっこないのだ。
少年は思った。
もしかしたら、分かりたくないのかも知れなかった。
そんな周知の事実を改めて知らされたくは無かった。
人の身体の中には、血が流れている・・・。
数時間前にその光景を見たときの苛立ちを反芻し
少年は、再び身体の中の熱を感じた。
水だ、水を探さなくては・・。
あきらめて、少年は給水塔の下の鉄の扉を開けた。
扉の閉まる音と同時に、天井の蛍光灯が消えた。
ほんの数秒後、再び明かりがあたりを照らしたとき、
目の前には、小さな女の子が立っていた。
不思議と驚きはしなかった。
もうこれ以上、なにを驚く事があるというのか。
少年は女の子の脇をすり抜けて、階段を降りようとした。
「あなた、人を殺したのね。」
女の子の言葉に足を止める。
そして振り返って、彼女を見た。
10歳くらいだろうか。見覚えのある顔ではなかった。
「お前だれだ?」
女の子は質問には答えず、こう言った。
「喉が渇いているんでしょ。あたしについて来て。」
そういうと、女の子は先に階段を降り始めた。
子供の癖にやけに大人びた黒いワンピースの女の子は
後ろを振り返ることも無く、どんどん階下に下っていく。
めんどうだ・・・と少年は思った。
しかし、どうせ自分もこのビルから出るつもりだったと思い直し
女の子の後を追うようにして、階段を降りていった。
12階建てのビルのちょうど真ん中あたりに差し掛かったところで
女の子は少年を待っていた。
「こっちよ。早くして。」
そういうと女の子は、扉を開けた。
「待てよ。」
少年は叫んだが、彼女は構わず扉の中に消えた。
室内は危険だ。
彼はそう思い、扉の中には入らずに
階段を降りようと振り返った・・・
が、そこに階段は無かった。
どうなっているんだ?
少年は、コンクリートで囲まれた小さな小部屋にいるのだった。
そこには扉が一つ。
さっき少女が入っていったはずの、扉があるだけだ。
なんなんだ?これは・・。
扉を目の前にして、少年の苛立ちはピークに達した。
おもむろに左のこぶしを握り締めて、鉄の扉を叩き始めた。
バシ−ン、バシーンという音が小部屋に響いた。
拳から脳の中枢に痛みが達する間も無く、少年は叩き続けた。
五回、十回と叩き続ける。
と、突然、扉が向こう側から開いた。
「あなた、何してるの。早くしてって言ったでしょ。」
あきれたような声で、女の子は言った。
「時間が無いの。お願いだから言うとおりについて来て。」
少年は無言で頷いた。
そして、女の子の後に続いて扉を抜けた。
そこはバスのターミナルだった。
緩いスロープが螺旋を描きながら、地上に向かっていた。
オレンジ色のライトが等間隔に壁に取り付けられていて
スロープがカーブしている辺りまで、照らしている。
プシーッというブレーキ音がして
バスが停車した。
「乗りましょ。」
女の子が先に乗り込んで、後に少年が続いた。
そして一番後部の座席に座ると、バスは静かに
発進した。
「はい、これ。お水。」
女の子はペットボトルの水を、彼に渡した。
少年は、キャップを開けるのももどかしく、水を飲んだ。
「慌てないで。ゆっくり飲んで。少し時間がかかるから。
ちょっと眠るといいわよ。」
「いったい、どこへ行くんだ?」
「・・・夜の、向こう側。」
窓に映る自分の顔を見つめながら、女の子は言った。
「夜の向こう側?」
その彼女を窓越しに見ながら、少年は聞いた。
「そう、上手く行けばね。とにかく今はあまり説明できないのよ。
あなたが、どうして人を殺したのか説明出来ないように。」
そして彼女は、黒いハンカチを彼に渡した。
「血が出てるわよ。左手。」
ハンカチを包帯代わりに左手に巻きながら彼は思った。
もしも、この夜の向こう側があるのなら・・
それを見て見たい、そう思った。
バスが大きく左に傾いて、国道に出た。
終わりなき夜の旅が今、始まったのだった。


